板橋の子育て支援は東京都トップレベル? ! 板橋区長に直撃しました

マム・スマイル坂東愛子と坂本区長

自身も一児の母であるマム・スマイル代表 坂東が、板橋ママの代表として坂本区長にインタビューしました。
2007年に板橋区長選挙に初当選し、現在4期目を務めている坂本区長。これまでにCAP’Sやあいキッズ、あいユースといった「板橋の子育ての当たり前」をつくり、さらに教育にも力を入れ続けていることはご存知でしょうか?
これまでの取り組みをご紹介するとともに、2022年から東京都が進める「育業」への取り組みや、これからのお話しを伺います。

板橋区が何を目的にどのような事業をしているのか?板橋ママとして知っておきたい話が満載です。

板橋区長 坂本 健(さかもと たけし)
板橋区成増出身。(株)日本設計に勤務を経て、特別養護老人ホームケアタウン成増設立代表者、社会福祉法人みその福祉会理事長、みその幼稚園設置者となる。その後、2005年に東京都議会議員選挙に初当選。2007年には板橋区長選挙に初当選し、現在4期目を務めている。2023年4月の区長選挙に出馬を表明。

マム・スマイル代表 坂東 愛子(ばんどうあいこ)
北海道出身。大学卒業後、システムエンジニアとして勤務するも、結婚を機に専業主婦となる。第一子出産後の孤独な育児経験から、ママが社会と繋がる場の創出を目指し、 2016年に板橋区で育児女性の社会復帰を支援するママコミュニティマム・スマイルを立ち上げる。保育園フォレスタ・志村三丁目 園長。一般社団法人育児キャリアアップ推進機構 代表理事 。

パパと一緒に育児をするには?板橋区における「育業」

マム・スマイル代表坂東愛子

坂東:今回インタビューをさせていただく背景として、最近は子育てや教育について主張する政治家が多い中で、理想論ばかりで具体的な政策がわからないという印象を、いち市民としても受けています。
坂本区長といえば、23区で唯一乳幼児に特化し年齢別プログラムを展開している児童館「CAP`S」や、全区立小学校に学童クラブ機能「あいキッズ」を設置し学童の待機児童ゼロを実現するなど、子育てに関する課題を一つひとつ解決してきた方、というイメージがあります。

昨年から東京都でも「育業」というプロジェクトが進み、女性と男性が一緒に育児をしていこうという世の中に変わってきていますよね。実際はまだまだ、ママたちから「パパは仕事が忙しくて育児に関われない」と嘆く声も聞かれますが、板橋区では育業に向けて計画されていることはありますか?

※育業:2022年、東京都の公募によって決まった「育休」の愛称。育休という名だと仕事を休む期間と捉えられがちなため、「社会の宝である子供を育む期間」と考えるマインドチェンジに向けて愛称が付けられた。

坂本区長:今まさに取り組んでいることとして、「いたばしパパ月間」と「いたばし good balance 会社賞」があります。
「いたばしパパ月間」は2018年から毎年10月に開催しているもので、男性がもっと家事や育児に関わるきっかけ作りが目的です。例えば、男性の家事や育児をテーマにしたセミナーを開催したり、区内26の全児童館でイクメン講座を行ったりしています。
ほかにも保育園での一日保育士体験を、パパに参加をお願いしています。男性にも保育の現場を知ってもらうことが大切だと思っていて、お子さんの日常を見られることで、イベント時の頑張りもより一層理解できるようになります。パパ自身のためにはもちろん、お子さんのためになることと思って、チャレンジしていただけるといいですね。

いたばし good balance 会社賞

「いたばし good balance 会社賞」は、とはいえ男性の育児参加は働き方と密接であるとの考え方から、今の社会にあった働き方と育児のバランスを考え、具体的に働き方を変えていく目的で設けました。

※いたばし good balance 会社賞:仕事と生活の両立支援や、男女ともに能力を発揮できる職場づくり、多様な人材を活用し、すべての人が働きやすい環境づくりに取り組む中小企業に与えられる賞。子育てと仕事の両立を支援する取り組みの事例として、保護者会やPTA活動に参加できるように1時間単位で有給休暇が取得できる、男性の育児休業取得実績がある、などが挙げられる。

毎年、表彰した企業を紹介する冊子も作り、それぞれの会社で評価されたポイントを紹介しています。この冊子は企業に関わる人が登場する仕組みなのが面白いなと思っていて、受賞企業からは社員やその家族の会社に対する誇りや愛着につながったという話を伺っています。ベンチャー企業のエントリーも結構多いんです。

副次的な効果として、製造業やサービス業など板橋にあるいろいろな企業の働き方がこの中で見えるようになりました。この賞を持っている会社は多くて、工学産業のトップブランドの会社も受賞しています。板橋のブランドとしてこういった賞があって、製品が素晴らしいことはもちろん、職場づくり、人づくりもしている証になっています。

表彰されることはもとより、より良い職場にしようと志す会社の取り組みが、働く人や社会に伝わっていくことが大切ですよね。板橋には多様な働き方があって、自分の力が発揮できる場があるんだということも、皆さんに知ってもらいたいです。

坂東:パパ自身が子育てに参加するスキルを持つことと、同時に企業がワークライフバランス(仕事と生活の調和)の推進を両立することで、男性の育児参加に繋がるということですね。
お話を聞いていると、いろいろな側面から、ひとつひとつ目的を意識して取り組まれているなと感じました。それぞれすごくいい取り組みなので、もっと認知度が上がってほしいですね。

坂本区長:そうですね。「いたばし good balance 会社賞」の存在がもっと知られれば、いずれ新しい働き方などに繋がっていってくれればと考えています。

坂東:坂本区長が成し遂げてきたことは、「根本から変える」ことですよね。長い目で見てしっかりと効果が見えてくる取り組みが多いと感じました。

坂本区長:その効果をしっかり発信していくことがこれからの課題なのですが、実は板橋にはオンリーワン・ナンバーワンと外から評価される取り組みが多くあります。住んでいる方にとっては「当たり前」になっているので、板橋だけ違うことをやっているとわかってもらえないことも多いのかもしれません。

坂東:それはすごく感じます!それを知ると、子育て世代が板橋に住んでいて良かったと、もっと思えるんじゃないかと思います。

実はオンリーワン!板橋が誇るべきCAP`S(児童館)とあいキッズの未来

坂本区長

坂東:CAP`S(児童館)やあいキッズが、まさに板橋独自の取り組みだと認識されていないことが、代表例だと思います。区長自身の育児や幼稚園経営の経験から、幼児教育の重要性を身をもって実感し、生まれた発想だったのでしょうか?

坂本区長:あいキッズは、徳丸小学校の学童クラブを見に行ったことがきっかけで生まれました。当時は校舎の別棟に100人くらいの子どもがいて、とてもじゃないけれど勉強に集中できる環境ではないなと感じました。そこで学校の空いている空間すべてを利用することを考えたんです。そうすれば体育館や校庭なども有効活用できるなと考えました。

坂東:他の区の話を聞くと、学童の待機児童がいるというのをよく聞きますし、全国的なニュースにもなっていますよね。そのような中で、板橋は希望する子供たちが学童に入れる環境がある。これは、素晴らしい取り組みだと思います。

坂本区長:自園の園舎や園庭を利用している幼稚園の預かり保育がパッと浮かんで、小学校も同じようにできるのではないかと思ったんですよね。

坂東:学童クラブの機能が学校内にあるというのも本当に素晴らしいですよね。子どもも親も、安心して利用できます。

CAP‘Sもかなり斬新な取り組みですよね。普通、児童館というと小学生が対象なので、区外の方に板橋の児童館は乳幼児に特化しているとご説明すると「すごいですね」と驚かれます。

坂本区長:CAP’Sの構想は私自身の子育てがきっかけなのですが、幼稚園に入るまでの0〜2歳の子と親の居場所が気になったのです。助けてもらった児童館の職員さんや友達、先輩、立場が変われば自分の経験を聞きたいという育児における後輩など、子育てをきっかけに交流を持つ方たちとの関係は強固で、その出会いが後に影響するんじゃないかと思ったんですね。
子ども同士はもちろん、親同士、家庭同士、学ぶところがあります。いろいろな家庭環境がありながら、それを共に乗り越えるというか、楽しみながら地域で子育てをしていく。大変なところもいいところも見て、それで自分のやり方は間違ってなかったという納得感が持てれば一番いいですよね。だからこそ、区として育児に関係するところがまず繋がったほうがいいのではないかと思いました。

坂東:板橋区は公園デビューじゃなくて児童館デビューですよね。住んでる私たちは当たり前だと思ってしまいますが、区外に引っ越したママからは板橋のほうが良かったという声を聞きます。もっともっと、全国に知ってもらえると嬉しいです。

坂本区長:そうですね。でも、児童館を乳幼児に特化できたのは、児童館の職員さんのおかげなんです。今の若い職員さんは、元々保育士でスキルのある方が多くて。平和公園で開催している「こどもわくわくフェスタ」は、区内26の児童館がすべて集まって行うことで、1万人が集まるイベントになっています。「みんなの児童館」というイメージに繋がってきているかなと思っています。

坂東:板橋がこれまで培ってきた環境に加えて、育業もできたら最強なんじゃないかと思っています。

坂本区長:今やっているCAP`Sやあいキッズ、i-youth(アイ・ユース:中高生・若者支援スペース)、乳幼児から中高生までの縦の繋がりと、児童館と子ども家庭支援センターなどの横の繋がりを持つことは、できてきているのではないかと思っています。
その繋がりを生かして、親御さんが忙しい中でも、地域全体でケアしていければいいなと考えています。

坂東:これまでの取り組みが結びつき、最後の仕上げでパパ向けの取り組み、ということですね。

坂本区長:そうですね。児童館では先に挙げたイクメン講座のほか、全児童館で年に2〜3回「パパと一緒にあそぼ!」というプログラムを土日を中心に行っています。令和4年度には400名の保護者が参加され、そのほとんどがお父さんでした。

また、区内の核となる児童館では「パパママくらぶ」というプログラムも行っています。0〜2才の少し発達が気になるお子さんとその保護者を対象にした、少人数かつパパも参加できるプログラムです。保護者同士の交流や、臨床心理士さんを配置して相談できるようにしています。

こうした取り組みは、コロナ禍での良い変化も生みました。昨年児童館に来た方のうち5%が男性と、男性の割合が増えているんですね。コロナ前は5%もいなかったと思います。男性の方は行きにくかったかもしれませんが、今は男性も女性も関係なく来てくださっています。

お父さんならではのアクロバティックな遊びを、子どもは喜びますよね。子どもたちのためにもお父さんが来ることは良いことですから、それを知っていただくためにもパパ向けの取り組みを児童館全体で進めていきたいですね。

坂東:4期を経て、改革への土台を整えてきたところだと思いますが、これから10年後を見据えたパパの育児参加や育業に向けたビジョンはありますか?

坂本区長:元々児童館というのは小学生を対象にしていたので、CAP`Sにしたときに一定の改修はしましたが、まだまだハード面の改修も必要だし、もっと広い意味での児童館の健康機能、地域の相談機能などを進化させていく必要があるなと考えています。

普段から居心地の良い場所になっていて、繋がりができて、困った時には徹底的にサポートできることが重要だと思います。もっと言えば、小学校に進級する時にも連携をとっていければ良いなと。

さらには、板橋の自然にもっと目を向けて、自然から学ぶような児童館もありかなと思っています。そして、児童館という場所にとらわれず、児童館という一つのグループが、絵本館や植村冒険館、教育科学館など、区のいろいろな施設やアイテムを利用してもいいのではないかと考えています。

坂東:本当に実現してくださりそうで、楽しみですね。ぜひ、板橋としての大きな子育てプロジェクトとして取り組んでもらえたら嬉しいです。
東京都の育業の取り組みに負けじと、板橋は子育てに力入れているんだというのが、もっと知られていくといいですよね。そうすると私たち板橋のママも、板橋で育児していますともっと誇りを持って言えると思います。

意外と身近なところにある、板橋の探求学習とは?

坂本区長とマム・スマイル代表坂東愛子
坂東:最後にもう一つお聞きしたいのが、教育の話です。いま全国で不登校が増えていて、それは板橋でも同じです。実際に私の周りのママからもそういった学校関係の悩みを耳にしたことで、全国的に教育改革が必要だと思っています。板橋区ではどんな取り組みがされているのでしょうか。

坂本区長:教育も時間のかかることで、子どもに何か価値のあることを届けようと思うと、地域の仕組みそのものをきちんと作らないと成し遂げられないと思っています。

だからこそ、その分野に精通した信頼できるプロフェッショナルをパートナーとして学校とともに取り組んでいかないと、本質的な解決は難しいと思うんです。

例えば、板橋こども動物園では、小学3年生から中学3年生までの7年間入れる「動物クラブ」というものがあります。
参加する子どもたちが、管理している会社のスタッフと一緒に動物の世話をしています。大事なのは大人が一部を見せて終わるのではなく、子どもの発達に合わせながらも子ども扱いをしないことです。見て学ぶところから、少しづつ実際に体験してもらう。この動物にはどういう食べ物がいいのか、寝る場所はどういうところがいいのかなどあれこれ考える、お子さんのなかで自発的に探究心が芽生えていくと面白いですよね。

坂東:それってまさに「探究学習」というものですよね。探究学習とは、従来のような教師から与えられた問題の答えを探す学習方法ではなく、自ら問いを立ててそれを解決するために情報を集めたり分析したり、周りの人と協力をしたりしながら答えを探す力を身に付けていく人間力が養われるという今話題の学習方法ですよね。探求学習が小学校で取り入れられるようになったのは3年ほど前くらいからですが、板橋ではその前から取り組まれていたのですね。そしてさらに、課題解決のプロセスを繰り返し行える場を増やしていきたいと。

坂本区長:そうですね。そうなると管理する側の人材が非常に大事で、子どもに教えることが好きで、きちんと教えられて、高い技術力を持っている方にやっていただきたいですね。

坂東:確かに坂本区長のおっしゃる通り、教える側が探求学習についての深い知識と技術力が必要ですね。探求学習で大事なのは、本物に触れることですよね。それをすごく意識されているんですね。

坂本区長:特に文化面は、10歳までに本物に触れるということが大事だと思っています。味覚も同じですね。熱帯環境植物館も本物に触れられるアイテムの一つです。実は専門家に監修してもらって作った建物で、歩き進めていくとマレーシアの気候がわかる本物の環境を作っています。そこで苗を一緒に植えたり、今後は新しい品種を作ったりもできるかもしれません。

坂東:幼少期が大切だと捉え、教育を意識して板橋区にいろいろな取り組みを設置されていると知ると、改めて坂本区長はすごいなと思います。どれも成し遂げるためには時間を要してしまうものだから、これまでの4期で少しずつ実現してこられたんですね。

坂本区長:子どもの成長は早いから、なるべく早くスタートラインに立ってほしいなと思いますね。子どもたちには目標を持って、簡単なことよりできなくてもいいから難しい方を選んでほしい。そうすると、職員さんもそれをサポートするために努力すると思いますし、子どもの達成感も増すはずなんです。

坂東:今日、坂本区長のこれまでの取り組みを聞けて良かったなと思います。知らないママだと、板橋の今ある環境が当たり前だと思って過ごしちゃうんですよね。

最近も区外から来られた小学校の校長先生と話す機会があって、板橋区の小学校の設備はDX化(教育のデジタル化と変革)がすごく進んでいると言われました。私を含め、小学生の保護者はそういうことも知らずに、今の状況を当たり前のことのように暮らしているのではないかと気付かされました。

坂本区長:例えば電子黒板のようなDX化は、10年も使えない、いわば消耗品だと思うんですね。どんどん使って壊れたら直せばいい。子供たちにとっては、その時々で一番いいものを使っていくのがいいと思うんですね。そういうのを使って、双方向の授業ができたらいいと思っています。

坂東:今日話を伺ってきて、坂本区長はフラットだけれど一人ひとりの個性を大事にするという理念があるなと感じました。最新の探求学習をやっているんじゃないかなと思いますね。

坂本区長:昔から3つの視点を持つようにしています。マラソンの中継のように、トップと真ん中と最後の方をカメラで捉えるようなイメージです。トップランナーがいないと真ん中が早くならないし、真ん中が頑張らないと最後の方が完走できないんですよね。教育もすべてそういう視点で見ています。トップも絶対必要だし、支えることが得意な子もいますし、順番を決めるわけではないけれどそれぞれの役割があるということですね。

坂東:キャリア教育の概念ですね。その概念で街作りをされているというのはなかなかないんじゃないかなと思います。今は土台作りの段階なので、一見わかりづらくて理解されないことも多いのではないかと思いました。

マム・スマイルとしては、こういった区の取り組みをママたちに伝えていくことで、彼女たちが「板橋で子育てしていること」に誇りを持てたら嬉しいですね。区外からは、魅力ある街だと見られたらいることを知って欲しい

坂本区長:区の隅々で、例えばエレベーターでベビーカーを押している方がいたらドアのボタンを押して先にどうぞとできるとか、そういうことを当たり前にできるようになることが、心身ともに優れている街だと思うんですね。

一番大事なのはそういった意識なんです。板橋が区と子どもを大事にしているということの証が寛容さというか。子どもの騒ぐ声も時には多めに見てあげて、ダメなことはダメと言って、メリハリのきいた優しさというか、板橋の作法というものをみなさんが持てるようになると良いですよね。自分がそうして育ってきたので、次の世代もそうやって育ってほしいと思っています。

坂東:板橋全体で子育てをするということですよね。そういう環境作りを目指すという、板橋全体の子育て方針を伺うことができて良かったです。

今回は今まで知らなかったようなこともたくさん聞くことができました。今ある環境を存分に享受しながら、これからの板橋にも期待したいと思います。
ありがとうございました。